伊藤トモの俗・実験室

頑張ってる左手

三題噺

『白く砕ける』

――カーン! ドームに甲高い金属音が響き渡る。 新年に相応しい雲ひとつない晴空の下、やや攻撃性のある冷たさの風が吹いている。ここは野球場であるが本日1月1日は野球ではなく、鏡開きが行なわれている。 投手が鏡餅を投げ、打者がそれを金属のバットで打ち…

『夜に問われれば』

「いらっしゃいませ」いつも通りの低くも明るいマスターの声色が出迎えてくれる。会社から急行で25分、自宅のあるベッドタウンのそれなりに栄えた駅前にこのバー「Athenys」は店を構えている。夜8時、今日は金曜日だが、今週はいつもより仕事が早めに片付い…

『殻の中の憂鬱』

xx21年、人類の叡智はそれなりに結集され、諸々の分野で諸々の発見があった。 彼、大田健法ことKensheland Ohtaは大学生である。人類の中でも特に頭脳明晰であることから、この大学に入学できた。 とはいえ、現代では脳科学の発展により脳の最適化が可能にな…